寝具と腰椎の関連調査 ~せんべい布団は腰に悪い~

はじめに

腰が悪い人は布団を薄くし、畳の上で寝るくらいに硬い布団の方がよいと信じている人は多い。中には病院のベッドをできるだけ硬めにしている医師も存在する。つまり、一般人のみでなく医師も平らな布団が腰痛疾患によいと信じているわけだが、この俗説が正しいかどうかを検証する。これまで寝具に関して医学的に検証を試みたものはない。ここでは平らで硬い診察ベッドを用い、そこに仰臥位になった状態でXP撮影をすることにより、腰にどのような影響を及ぼすかを調査した。

要旨

平らな台に仰臥位になると下肢の骨盤前面を起始部とする筋群による牽引力で骨盤が前方に傾く。この力により腰椎は伸展位方向に力を受ける(ブリッジとなる)。この時L5/S1に椎間板症がある者は椎間板が変形し、椎間孔の狭小化が起こる。そしてこれが神経根を圧迫し、神経損傷を起こすリスクが高くなる。一方、沈み込む布団(マットレス)を再現した胸膝位での仰臥位(腰椎後彎を促す状態)では椎間孔の狭小化は認められなかった。これらの結果より、椎間板症を持つ者が平らで硬い寝具に横たわることは、腰椎疾患を増悪させる可能性が高いと思われる。「平らな布団に寝れば腰によい」という俗説は根拠がなく、逆に椎間板症を持つ者に悪影響を及ぼす可能性が高い。一刻も早くこの俗説を修正し、寝具で腰椎疾患を悪化させる人を事前に防止しなければならないという結論に至った。
 

調査方法

1)硬い診察台に仰臥位になり、側面からXP写真を撮影する。 2)硬い診察台に仰臥位になり足元に毛布を積み上げその上に足をのせ、膝を曲げた状態(軽い胸膝位)の仰臥位で側面からXP写真を撮影する。 3)対照として立位側面像のXP写真を撮影する。
腰(殿部)が沈み込む布団(マットレス)では腰椎がブリッジにならない。沈み込むと腰椎は軽い屈曲位となるため、それを再現させるために今回の実験では足元に毛布を高く重ね、その上に両足を置いて軽い胸膝位をとらせた。その上で側方から腰椎側面像を撮影した。この方法で沈み込む布団の状態を再現した。

椎体の角度比較

bed rest01 この3枚の写真はそれぞれ左から、立位、胸膝位、仰臥位である。立位は正常対照として撮影し、角度を計測した。青ラインは椎体の角度を表し、前傾をプラス、後傾をマイナスで表した。赤ラインは椎間板の辺縁の角度を表した。赤数字は椎間板の扁平角度を表わす。尚この写真は筆者の腰椎である。

椎体角度結果分析

1)腰椎Lordosis(前彎)について仙椎と最も後傾のついている腰椎との角度を測定
  • 立位:35°(L2-S1)
  • 胸膝位:27.5°(L1-S1)
  • 仰臥位:33.5°(L1-S1)
椎体に重力がかかる立位では腰椎に前彎が強くつくことは理解できる(35°)。当然ながら仰臥位では前彎が減少するはずと思われたが、結果は予想と反し、前彎がほとんど消失しない(33.5°)。硬く薄い布団に横たわると仰臥位になっても腰椎はブリッジ状態となったままである。 2)L5/S1椎間板の角度
  • 立位:11.5°
  • 胸膝位:14.0°
  • 仰臥位:18.0°
  立位よりも仰臥位で椎間板により強く変形のストレスがかかることが判明した。さらに、L1/2、L2/3でも椎間板が台形に変形しており、立位よりも仰臥位で強く変形のストレスがかかっている。
 

椎間孔の狭小化

胸膝位と仰臥位で椎間孔を比較した。胸膝位では椎間孔がしっかり開いているが、仰臥位では上関節突起が前方に移動し、椎間孔を著しく狭小化させていることがわかる(下図)。 bed rest02 下図は神経根を黄色で付け加えたもの。仰臥位では図のように神経根が上関節突起によって圧迫を受けると予想される。 bed rest03
 

 考察

立位では腰椎は前彎となるのが通常であるが、仰臥位では平らな所に寝るのでこの前彎が消失するはずと思われがちである。しかし実際には前彎はとれない。その理由は下肢の重さによって骨盤が前傾への牽引力を受けるからである。これは主に腸骨前面に起始部を持つ大腿筋膜張筋、腸骨筋、縫工筋と、恥骨に起始部を持つ内転筋群の張力によるものである。硬く平らな寝具を用いると股関節が必ず伸展位となるためこれらの筋肉の牽引力が骨盤を前傾させてしまう。さらに腸腰筋の牽引力によって腰椎はブリッジ状になりやすい。今回の計測では仰臥位は胸膝位と比べ6°も強い傾斜がついていた。また股関節を軽度屈曲位にすることでブリッジ状態が解消される。
L5/S1の椎間板は胸膝位、仰臥位のどちらの体位でも立位よりも変形の度合が強まった。これは腰椎が重力により背側に移動しブリッジとは逆方向の力が加わるからである。ところが骨盤は前傾へと力が加わるため、その境にあるL5/S1椎間板には過度の変形ストレスがかかる。健全な椎間板であれば重力程度の牽引力ではこれほどまでに変形はしない。しかし、椎間板症が存在し、髄核や線維輪の構造が崩壊している椎間板では重力のみで容易に変形する。しかも仰臥位で寝ている最中は腹筋や傍脊柱筋が弛緩しているので牽引力がまともにL5/S1の椎間板を変形させる。筆者はL5/S1に椎間板症を持っている。よって仰臥位でこれほど椎間板が変形する(L5/S1不安定症といえる)。
健全な弾性力を持つ椎間板であれば、18°まで角度が開くことはない。しかし椎間板症が存在していると強角度に椎間板がゆがむ。この歪みはL5/S1のFacet(椎間関節)に下関節突起の下端を中心としたてこの原理を生み、上関節突起が前方に亜脱臼する。これが椎間孔を狭小化させ、ここを通る神経根を損傷させる可能性が高くなる。もしもL5/S1の椎間板が健全であり、L4/5の椎間板が崩壊していた場合、同様のことがL4/5のFacetに起こる。胸膝位では前述したようなてこの原理が働かないので上関節突起は脱臼しない。よって椎間孔の狭小化は起こらない。
 

まとめ

  •  高齢者になると明らかな腰椎疾患を持たない者でも椎間板の崩壊は必ず起こる。したがって平らな硬い寝具に寝ることは種々の腰椎疾患を生じさせるきっかけとなりうる。ましてや、現在、神経痛や下肢のしびれなどの腰椎疾患を持っている者が平らな硬い寝具に寝ることは、寝ている間に病気を製造しているようなものだと言わざるを得ない。
  •  しかしながら前弯が強い方が有利な場合もある。それは馬尾が緊張していて神経痛がある症例だ。前弯が強ければ馬尾の張力はゆるむ。よって若い年代の腰椎には薄い布団は有効と思われる。なぜなら、若いほど馬尾の緊張は高い傾向にあるからだ。腰が悪ければ平らな布団に寝るとよいという俗説は若い者にはあてはまるが高齢者にはその根拠がない。ファセットに変形があると前弯で椎間孔がせばまる。
  •  できれば股関節が軽度屈曲になるよう、殿部が若干沈み込む布団やマットレスにするべきだと思われる。今回はマットレスを使用する代わりに、胸膝位を撮って調査したが、今後は種々のマットレスを用いて実験したい。
   

寝具と腰椎の関連調査 ~せんべい布団は腰に悪い~」への2件のフィードバック

  1. 初めまして、この半年間、徐々に悪化していく股関節の痛み、座骨神経痛のような痛みに悩まされ
    今は痛み止め飲まないと耐えられない状態です。
    思い返すと、ベットマットを硬いもの寝返りうちやすいものにしてから腰が痛み出し、朝起きたときが一番辛かったです。
    レントゲン結果を見ても5番目の隙間が他の1/3しかないために痛みが出ているのではと言われ
    この論文を読んで、就寝時の筋肉弛緩により朝方激痛で動けなくなるのかもと考えました。

    とりあえずベットマットを低反発のものに変えてみます。
    変形してしまったものは戻りませんでしょうか?

    • 変形したものは治りませんが、股関節の変形による痛みはステロイド(ケナコルト)入りの関節内注射で劇的によくなります。しかし、この事実は整形外科医には信じられておりません。しかし、どれほど変形が強い膝でも、ステロイド入りの関節内注射をすれば1ヶ月間ほど痛みなく歩けるという人はざらに存在します。股関節もそれと同様です。しかし、残念なことに股関節内注射は普通の医者は行いません。ベッドマットは私は西川のムアツマットを強く推薦しております。理由は、高度な変形脊椎にも対応できるからです。

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