第三十話 2度目の高野山でのハプニング

診療所は8月9日からお盆休みにし、8日の夜には大阪難波入り。そして早朝から特急「こうや号」に乗って高野山に向かいます。

今回の目的は霊宝館の国宝を見に行くことです。おそらく奥様にとって貴重な体験ができると予想してのことです。

最初は金剛峯寺に行きますが、ここの中心部分の本尊様が祀られているところでやや強い波動を奥様は感じたといいます。

まず眉間の奥に圧迫を感じ、その後に右手がビリビリしびれます。これが奥様が波動を感知した時に起こる変化です。このため、霊力の高いスポットは手に取るようにわかると奥様は言います。

 その奥には売店があり、空海様にまつわる書物がたくさん売っていました。私と奥様は喜々として本を10冊くらい買いました。普通の本屋には置いてないので。

その後、今回の一番の目的の霊宝館に行きます。

そこで奥様は最初の部屋で大日如来像と如意輪観音菩薩像の前で非常に強いびりびりを感じます。

事件はその次の部屋で起こります。畳12畳くらいの大きさはある巨大な曼荼羅が展示されている部屋に入ったとたん、奥様の顔が痙攣しはじめたのです。奥様は「お願い、こっちを見ないで」と言うのですが、私は気になってこっそり斜め目線で奥様の顔を覗き込みます。すると奥様の頬や眼輪が激しく動き、にらめっこを早送りにしたような激しい表情の変化を起こしていました。私はこれが曼荼羅から発せられる波動のせいであるとすぐに理解します。こんな風に顔の形が変わってしまう体験をしたのは初めてのことで、奥様はとまどいます。が、好奇心には勝てず、奥様はどこからの波動であるかを探るために、二枚の金剛曼荼羅と胎蔵曼荼羅を行き来します。

すると胎蔵曼荼羅に近づくと顔の筋肉が激しく動くことをつきとめました。

理由はこの当時、私たちには全くわかりませんでしたが、この後、奥様は顔が歪むという体験を、何度も体験していくうちに、その意味が少しずつわかるようになっていきます。しかし、現時点では全くわかりませんでした。

 ただし、わからないなりに曼荼羅からの波動が直接脳神経に作用する力があることがわかりました。すなわち、波動で人の神経系に強制的に信号を送ることができることを意味し、それは自分の意志では逆らうことができないほど強力であることも理解するのでした。

こんな力があれば人の行動を操ることはいとも簡単だろうと思います。胎蔵曼荼羅から出ている波動は果たして善良なものか悪いものか? 顔の形が変わるという事態からは「良いものである」とはとても思えません。しかし、高野山に大切に保管されている秘宝の胎蔵曼荼羅が、「悪いものである」と考えることは罰当たりでもあり、深く考えると不安になるだけでした。しかし、ここの波動は奥様にちょっかいを出していることだけは確かなことです。O先生に訊けばわかるのだろうか?などと想像します。

その後、奈良時代に書かれた経本にことごとく奥様の右手がびりびり反応しました。経本に反応する理由も全くわかりません。

その後、通路を歩いていると、奥様の右手が再びしびれてきます。そのしびれは3メートル大の不動明王像の前でもっとも強くなり、像の前では奥様の全身にびりびりが広がります。それはまさに「ここに来なさい」と命じているかのようだと奥様は言います。

この感覚は以前、東大寺の大仏の台座の前で感じたものと同じ感覚で、奥様は普通の波動ではなく高次元の神々しい波動であると理解しています。この全身系にくるビリビリ、そして右手の反応の仕方は霊が降りた時の感覚や普段感じるトランスの時の感覚とは明らかに異なるようです。

不動明王像の解説がその左わきにありましたので、読んでみると、像の中には胎内仏があると書かれていました。奥様は胎内仏の波動を感じ取るために不動明王像の左胸の当たりに手をかざしました。すると左胸のネックレスが揺れ動いたのです。

私は奥様と顔を見合わせました。それは明らかに奥様の手に呼応してネックレスが揺れたからです。揺れていたのはほんの10秒くらいでしたが、その後奥様はその場所を通り過ぎては近寄り、ネックレスを凝視し、を繰り返します。

私にもその意味はわかります。ネックレスが風で揺れたりしていないかを確かめるためです。いいえ、館内はほぼ無風で極めて鎮まり返っており、ネックレスを揺らすような風は吹いていませんし、その後、ネックレスをずっと観察しましたが揺れることなど一切ありませんでした。

そうであればこれはサイコキネシス(念動力)であると言ってもよいでしょう。奥様には微々たるものですが念動力があるようです。

こうした異変が起こるたびに奥様はトランス状態になりそうになりますが、すでにトランス状態を制御することができるように奥様の能力はアップしています。トランスは自らの意志で入ることも止めることもできるまでになりました。だから奥様は今回は全て制御したそうです。おそらくトランスに入るのが怖いのでしょう。何が起こるかわかりませんから。

さて、私たちは帰りの特急券を購入しているのですが、駅までの移動手段がないことに気づきます。タクシーは走っていません。バスでケーブルカーの駅に移動するにしても時間は恐らくぎりぎりでしょう。仕方なくバス停でバスを待つことにしたのですが・・・

すると反対方面行きのバスが反対側のバス停で止まった時に、運転手さんが窓を開けて私たちに声をかけてきました。

「そっちのバス停で待っても、バスは1時間以上けーへんで。こっちに乗り。」と親切にも私たちを導いてくれました。すごい親切さです。

「この先のバス停で降りて、反対側のバス停で待ってたら駅に行けるわ。」と親切に教えてくれて、降ろしてくれました。なんとありがたい話でしょう。

私と奥様は教えてくれたバス停でバスが来るのを待っていたのですが、時刻通りに来たとしても、ギリギリ特急に間に合わないようなのです。大ピンチです。こんなとき奥様は何をするかというと「時間に間に合いますように」とお唱えをするのです。

すると間もなく、旅館のマイクロバスがバス停に止まり、同じくバス停でバスを待っている若い女性に運転手が話しかけました。

「駅まで行くから乗っていきますか? そこで待っててもバスはなかなか来ませんから」と女性に親切にヒッチハイクを勧めているではありませんか。私は「これはチャンス」と思い、ずうずうしくも、「私たちも駅に行きたいんですが、乗せてもらえませんか?」と頼みました。なんと運転手の方はいやがりもせず、私と奥様の二名も乗せてくれました。

「なんて親切な人ばかりなんだろう、ここ(高野山)は」と二人で感激してしまいました。と、同時に、奥様の「運を引き寄せる力」のすごさに驚かされます。これって本当に偶然?

こうして私たちは無事に駅に予定時間よりも前に到着することができたのでした。